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J.P. Morganが問う「1兆ドルの問い」——AIエージェントに買い物を任せる時代の決済インフラはどうあるべきか

鈴木章広

鈴木章広

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2026/02/02

この記事のポイント

  1. J.P. MorganがAIエージェントによるショッピングの未来を包括的に分析し、Visa Intelligent Commerceの仕組みを紹介
  2. McKinsey推計で2030年までに3〜5兆ドル、Morgan Stanley推計で最大3850億ドルの市場が見込まれる
  3. EC事業者はエージェント対応の決済・認証インフラ整備を今から計画すべき段階に入った

AIエージェントが「あなたの代わりに買い物する」時代の到来

AI Agents for Shopping - Trillion Dollar Question | J.P. Morgan

AI Agents for Shopping - Trillion Dollar Question | J.P. Morgan

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Learn about the future of commerce—AI agents that can shop on your behalf—in this interview about Visa Intelligent Commerce.

J.P. Morganの決済専門メディア「Payments Unbound」が、AIエージェントによるショッピングの未来を包括的に分析するレポートを公開しました。「AIエージェントに買い物を任せますか?」という問いを起点に、スタートアップからテック大手、決済企業まで、エージェンティックコマース(AIエージェントが人間の代わりに商品の検索・比較・購入を行う商取引形態)の実現に向けた動きを詳述しています。

記事の中核は、Visaのグローバル成長担当責任者Rubail Birwadker氏へのインタビューです。Visaが開発する「Visa Intelligent Commerce(VIC)」の技術的な仕組みや、AIエージェントが決済を行う際の「購入意思の確認」という根本的な課題が語られています。

背景と業界動向

エージェンティックコマースは、2025年後半から2026年にかけて急速に実体化しつつあります。McKinseyは2025年10月の分析で、2030年までにグローバルで3〜5兆ドルの小売支出がエージェンティックコマースにリダイレクトされると推計しました。Morgan Stanleyも2030年までに米国EC売上の10〜20%(1900億〜3850億ドル)がエージェント経由になると予測しています。

消費者側の動きも顕著です。Morgan Stanleyの調査によると、米国人の約23%が過去1ヶ月以内にAIを通じて何らかの購入を行った経験があります。Adobe調査では、2025年7月時点で生成AIブラウザやチャットサービスから米国小売サイトへのトラフィックが前年比4,700%増加しました。

GoogleやAmazonも動いています。Googleはエージェンティックショッピングとチェックアウト機能を実装し、AmazonはRufusを拡張して「Buy for Me」機能を導入しました。Shopifyはマーチャント横断のカート構築が可能なエージェンティックインフラを提供開始しています。

Visa Intelligent Commerceと「意思確認」の壁

J.P. Morganの記事で最も注目すべきは、Visa Intelligent Commerce(VIC)の具体的な仕組みです。VICは、トークン化された認証情報を使ってAIエージェントがVisaの決済サービスにアクセスするためのAPIセットです。Birwadker氏によると、パートナー企業がすでに統合作業を進めており、Visaは世界中で100社以上のパートナーと連携しています。30社以上がVICサンドボックスで開発中で、20社以上のエージェントが直接統合を進め、数百件の実取引が完了しています。

一方で、決済における根本的な課題も浮き彫りになりました。従来のECでは「クリック」が明確な購入意思を示します。しかし自然言語でのやり取りでは、「これいいね」と「これを買って」の境界が曖昧です。Birwadker氏は、初期段階ではエージェントが購入前に消費者へ確認を求め、利用パターンの蓄積に応じて徐々にコントロールを緩和する方針を示しました。

さらに「責任の所在」も未解決です。エージェントが意図しない高額購入を行った場合、その損失はユーザー、マーチャント、Visaのいずれが負担するのか。Birwadker氏は「まだ多くの検討が必要」と率直に認めています。

業界全体では、2025年10月にVisaと10社以上のパートナーが「Trusted Agent Protocol」を発表しました。これは既存のWeb基盤上に構築されたオープンフレームワークで、マーチャントが悪意あるボットと正規のAIエージェントを区別できるようにする仕組みです。Mastercardも「Agent Pay」を発表し、MicrosoftのCopilot Checkoutへの統合を進めています。OpenAI、Cloudflare、PayPalとも連携を進めており、決済大手が一斉にエージェント対応に動いている状況です。

FISもエージェンティックコマース向けの発行銀行向けソリューションを発表し、「Know Your Agent(KYA)」データを活用した本人確認の仕組みを2026年Q1までに提供開始する予定です。

EC事業者への影響と活用法

エージェンティックコマースの本格化は、EC事業者に3つの実務的な対応を迫ります。

決済インフラの準備:Visa Intelligent CommerceやMastercard Agent Payへの対応は、今後のEC基盤設計で避けて通れません。特にトークン化された認証情報への対応と、エージェントからのAPI経由の購入リクエストを処理できる仕組みの整備が求められます。

商品情報の構造化:AIエージェントは商品ページのHTMLではなく、構造化されたデータを読み取ります。商品名、価格、スペック、在庫情報をAPIやフィードで提供できる体制が、エージェント経由の売上獲得に直結します。

信頼性とブランド構築の再定義:エージェントが購入を代行する世界では、従来のSEOやリスティング広告の効果が変わります。Morgan Stanleyのアナリストは「ECファネル全体が揺らぐ」と指摘しており、AIエージェントの推薦アルゴリズムに選ばれるための新たなブランド戦略が必要です。

Visaは2026年のホリデーシーズンまでに数百万人の消費者がAIエージェント経由で購入を行うと予測しています。対応の遅れは、そのまま機会損失につながります。

まとめ

J.P. Morganのレポートが明らかにしたのは、エージェンティックコマースがもはや概念段階ではなく、決済インフラレベルで実装が進んでいるという事実です。Visa、Mastercard、FISといった決済基盤企業が一斉にエージェント対応を進め、McKinseyやMorgan Stanleyといった調査機関が兆ドル規模の市場予測を出しています。

今後の注目ポイントは、「購入意思の確認」と「責任分担」に関する業界標準がいつ確立されるかです。これらが整備されれば、エージェンティックコマースの普及は一気に加速します。EC事業者にとって、2026年は「対応を始めた企業」と「出遅れた企業」の差が顕在化する分岐点となります。

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