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MastercardがAIエージェント決済の新ルールを発表 - エージェンティックコマース時代のチェックアウト標準化へ

鈴木章広

鈴木章広

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2026/01/21

この記事のポイント

  1. MastercardがAIエージェントによる自律的な決済を可能にする「Agent Pay」の新ルールとチェックアウト標準を発表
  2. GoogleのUniversal Commerce Protocol(UCP)と連携し、業界全体での相互運用性を確保
  3. EC事業者はコード不要でAIエージェント決済を受け入れ可能に—早期対応が競争優位につながる

Mastercard、AIエージェント決済の業界標準ルールを策定

Mastercard moves to shape AI shopping as agents reach checkout

Mastercard moves to shape AI shopping as agents reach checkout

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As AI agents start shopping and checking out on consumers' behalf, Mastercard wants to set the rules.

2026年1月、MastercardはAIエージェントによる自律的な商取引「エージェンティックコマース」に関する包括的なルールとチェックアウト標準を発表しました。この動きは、同社のCEO Michael Miebach氏が2025年10月に「エージェンティックコマースはすでに到来している」と宣言したことを受けたものです。

新ルールは、AIエージェントが消費者に代わって商品を検索・比較し、決済まで完了する「エージェンティックコマース」において、セキュリティと透明性を確保するための業界標準を定めています。Googleが2026年1月11日のNRF(全米小売業協会)年次総会で発表したUniversal Commerce Protocol(UCP)とも連携し、業界全体での相互運用性を実現します。

なぜ今、AIチェックアウトルールが必要なのか

エージェンティックコマースの急速な普及が、業界標準の整備を急務としています。

Adobe Analyticsの調査によると、2025年第1四半期の米国小売サイトへの生成AIトラフィックは前年比1,200%増を記録しました。OpenAIは2025年4月時点で8億人のアクティブユーザーを獲得し、わずか数週間で4億人から倍増しています。

McKinseyの予測では、2030年までにAIエージェントが米国B2C市場で9,000億ドルから1兆ドル規模の取引を仲介するとされています。PYMNTS Intelligenceは、2025年中にEコマース活動の約20%がAIエージェントによって処理されると見込んでいます。

しかし、AIエージェントによる決済には固有のリスクがあります。エージェントが深夜に取引を行ったり、複数の地域で短時間に大量購入を行う場合、従来の不正検知システムでは正当な取引と詐欺行為の区別が困難です。また、消費者の意図と異なる商品を購入した場合の責任所在も明確ではありませんでした。

Agent Payの4つの柱とチェックアウト標準

1. エージェント登録とトークン化

MastercardのAgent Payの中核は「エージェンティックトークン」です。これは同社が世界中の決済で使用しているトークン化技術を拡張したもので、AIエージェントを個々のユーザーに紐づけ、決済認証情報を保護しながらシームレスな取引を可能にします。

登録されたエージェントのみが取引可能であり、すべての取引はMastercardネットワークトークンによって管理・追跡されます。これにより、どのエージェントがいつ、どこで、何を購入したかの完全な監査証跡が確保されます。

2. 購入意図の検証

新しいルールでは、決済トークンに「購入意図データ」が含まれます。これには、消費者がエージェントに与えた指示、カート内容、取引限度額、有効期間などが記録されます。

このデータは、消費者の意図と実際の取引が一致しているかを検証するだけでなく、紛争が発生した場合の監査証跡としても機能します。従来の紛争解決はカード保有者、発行銀行、加盟店銀行、加盟店の4者間で行われていましたが、AIエージェントの介在により新たな責任レイヤーが追加されることになります。

3. 消費者同意の必須化

生体認証による明示的な消費者承認が、エージェントによる購入実行の前提条件となります。これは人間による承認をオプションではなく必須とし、不正支出を防止するものです。

Mastercardはこれを「ユーザーの意図は推測されるものではなく、検証され、同意され、すべての取引の中心に置かれる」と表現しています。

4. 業界標準との連携

MastercardはGoogleのUniversal Commerce Protocol(UCP)と連携し、相互運用性を確保しています。UCPはShopify、Etsy、Wayfair、Walmart、Target、Home Depot、Best Buy、Macy'sなど20社以上の小売業者とVisa、Stripe、Adyenなどの決済プロバイダーが支持するオープンソース標準です。

Mastercardのチーフデジタルオフィサー Pablo Fourez氏は「このエコシステムが進化する中、Mastercardは業界とともに、信頼、セキュリティ、責任を最初から組み込むプロトコルを推進しています」と述べています。

EC事業者への影響:ノーコードでAIエージェント決済に対応

Agent Pay Acceptance Framework

EC事業者にとって最も重要な発表は、Agent Pay Acceptance Frameworkです。これにより、加盟店は大規模なシステム開発なしでAIエージェントからの決済を受け入れられるようになります。

2026年1月2日にはFiservがこのフレームワークをClover POSとEコマースプラットフォームに統合することを発表しました。Fiserv経由で決済を処理する加盟店は、AIエージェントからの取引を既存の認証・決済・精算フローで処理できるようになります。

具体的な対応ポイント

1. CDNレベルでの認証対応

MastercardはWeb Bot Auth標準の実装を推奨しています。これはCDN(コンテンツデリバリーネットワーク)レイヤーで実装可能で、新しいコードを展開することなく、エージェントの真正性を検証できます。

2. 既存の決済インフラの活用

AIエージェントからの取引は、既存のカードネットワークレールを通じて処理されます。加盟店は新しい決済システムを構築する必要はなく、既存のMastercard加盟店契約の範囲内でエージェント取引を受け入れられます。

3. 不正検知の調整

AIエージェントの取引パターンは従来の消費者行動と異なるため、不正検知ルールの調整が必要です。エージェンティックトークンにより、正当なエージェント取引と不正行為を区別できるようになります。

消費者採用の現状

ただし、消費者側の準備は十分とは言えません。ChannelEngineの調査によると、4,500人の消費者のうち、AIに購入を完了させることに「快適」と感じるのはわずか17%でした。多くの消費者はすでにAIを商品調査に利用していますが、決済の委任には慎重な姿勢を示しています。

まとめ:2026年、エージェンティックコマース元年の幕開け

Mastercardの新ルール発表は、AIエージェントによる決済が「実験段階」から「本格展開段階」へ移行したことを示しています。

ロールアウトスケジュールは以下の通りです。

  • 2025年11月:米国のすべてのMastercardカード保有者がAgent Pay対応
  • 2026年初頭:グローバル展開開始
  • 継続的:UCPとの統合深化、対応加盟店の拡大

EC事業者にとって、この変化は新たなチャネルの出現を意味します。AIエージェントが消費者に代わって最適な商品を選定する世界では、従来のSEOやリスティング広告とは異なる「エージェント向け最適化」が競争優位の源泉となる可能性があります。

まずはAgent Pay Acceptance Frameworkへの対応を検討し、自社の決済プロバイダーとの連携状況を確認することをお勧めします。エージェンティックコマースの波に乗り遅れないよう、今から準備を始めることが重要です。

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Agentic CommercePaymentsMastercardAI

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