
この記事のポイント
- AIが自律的に支払いを行う「エージェント決済」の概要と仕組み
- Visa、Mastercard、Stripeなど主要プレイヤーの最新動向
- トークン化された支払い権限による安全な決済の実現方法
はじめに
ECやD2Cビジネスの世界では、AIがユーザーの代わりに商品を比較・選択・購入する「Agentic Commerce(エージェンティックコマース)」が注目を集めています。
その中核を担うのが、AIエージェントが安全に支払いを完了できる「Agentic Payment(エージェント決済)」です。
これまでの決済は人間の操作を前提としていましたが、AIが判断・購入を行う時代には、「AI同士が支払える仕組み」が必要になります。
この記事ではAgentic Paymentの仕組みと、主要プレイヤーの最新動向、導入時のポイントを解説します。
Agentic Paymentとは:AIが行う自律的な決済の仕組み
Agentic Paymentとは、AIエージェントがユーザーに代わり、事前設定されたルールや許可範囲内で支払いを自動的に実行する仕組みを指します。
この概念は、OpenAIとStripeが推進する「Agentic Commerce Protocol(ACP)」とも深く関係しています。
ACPではAIが製品情報を理解し、販売者と安全にトランザクションを完了できる仕様を定義しており、Agentic Paymentはその最終工程を担います。
たとえば、ユーザーがAIに「毎月同じシャンプーを買って」と伝えると、エージェントは価格や在庫を比較し、最適な選択を自律的に決済まで完了します。
支える主要プレイヤーとプロトコルの動向
エージェント決済の基盤整備は、すでに複数の国際決済ネットワークやプロトコルプロバイダが動き始めています。
Visa
Visaは「Visa Intelligent Commerce」を通じて、AIエージェントに安全な支払い権限を委任できる仕組みを構築中です。トークン化されたカード情報をAIが扱い、ユーザーの実カード番号を保持しない点が特徴です。
Mastercard
Mastercardは「Agent Pay」という仕組みを発表し、AIエージェント専用の支払いトークン「Agentic Tokens」を提案しています。これにより、AIごとの支払い権限や上限を細かく制御可能です。
Stripe
StripeはOpenAIと共同で「Agentic Commerce Protocol(ACP)」を策定。AIが商品を理解し、チャット内で支払いまで完結できる「Instant Checkout in ChatGPT」機能を提供しています。
PayPal
PayPalはAIチャット購買への対応を進めており、ボット経由での支払いや購買履歴学習を活用したスマートチェックアウトの実証を行っています。
American Express
Amex(American Express)もトークン化とAI決済の統合を模索しており、企業購買AIとの連携を視野に入れています。
プロトコル標準化の動き
これらの企業は共通してプロトコル標準化にも注力しています。
たとえば、Googleが主導するAP2(Agent Payments Protocol)は、AI間決済のためのオープンプロトコルであり、VisaやStripeのMCP(Model Context Protocol)とも連携していく方向性が発表されています。
Agentic Paymentの仕組みとメリット
Agentic Paymentは以下の3要素で構成されます。
1. トークン化された支払い権限
AIはカード番号に触れず、認可トークンを使用して決済を行います。
2. ルールベースの制御
支出上限・購入頻度・カテゴリ制限などをユーザーが事前設定。
3. 監査と認証
AIによる支払いは暗号署名とログで追跡可能です。
この仕組みにより、ユーザーは摩擦なく安全にAIへ購買を委任でき、企業側はリピート率と顧客LTVを高めることが可能になります。
課題と今後の展望
最大の課題は「どこまでAIに支払いを任せるか」という権限設計です。
各社はAIごとに限定トークンを発行し、二段階承認やカテゴリ制御を導入することで安全性を担保しています。
今後は、Agentic Paymentが「AIがAIに支払う経済圏(Agentic Economy)」を支える基盤へと進化していくでしょう。
Web3技術やスマートコントラクトと組み合わさることで、AI同士の取引や契約が完全自動で行われる未来も現実的になっています。
まとめ
Agentic Paymentは、AIが自律的に決済を完了するための中核技術であり、Visa・Mastercard・Stripe・PayPalといった主要プレイヤーが競い合いながら標準化を進めています。
企業が今から行うべきは、「どのプロトコル/ネットワークに対応しておくか」を見極めることです。
近い将来、Agentic Paymentはすべてのオンライン取引に組み込まれ、AIが購買を"代行する"だけでなく、"経済を動かす"存在へと進化していくでしょう。
