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McKinseyが描く「自動化カーブ」── 6段階フレームワークで読み解くAIショッピングの未来

鈴木章広

鈴木章広

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2026/01/29

この記事のポイント

  1. McKinseyが自動化の進展を6段階(Level 0〜5)で整理する「自動化カーブ」を発表
  2. 2030年までにAIエージェントがグローバルで3〜5兆ドルの消費者コマースを仲介すると予測
  3. EC事業者の競争軸が「人の目を引くUI」から「AIが理解できるデータ品質」へ移行

McKinseyが自動化カーブの全体像を公開

Agentic commerce: How AI shopping agents can change retail

Agentic commerce: How AI shopping agents can change retail

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Discover how agentic AI and AI shopping agents are transforming agentic commerce through automation, machine-readable retail strategies.

McKinsey & Companyは「The automation curve in agentic commerce」と題するレポートを公開しました。AIエージェントが消費者に代わって商品を検索・比較・購入するエージェンティックコマースの自動化がどのように進展するかを、6段階のフレームワークで体系的に整理しています。

同社は2025年10月に公開した前回レポートで、この変化を「地殻変動(seismic shift)」と位置づけていました。今回のレポートはその続編として、消費者がAIエージェントにどこまで購買を委任するかを軸に、自動化が加速する領域と停滞する領域を分析しています。

背景と業界動向

エージェンティックコマースの基盤が急速に整いつつあります。McKinseyは今回のレポートで、3つの推進力を挙げています。

第一に、AIエージェントが「決定グレード」の有用性に到達したことです。消費者はインスピレーションだけでなく、候補の絞り込みやバスケットの構成、さらには実行までをエージェントに委任できるようになっています。

第二に、エコシステムが自律的な取引を支える基盤を持ち始めたことです。MCP、A2A、AP2、ACP、UCPといったオープンソースプロトコルが整備され、Linux FoundationはAgentic AI Foundationを設立しました。Anthropic、Google、Microsoft、OpenAIなどが参画し、相互運用性・ID・決済の基盤構築を進めています。

第三に、消費者の「意図」がより上流で発生するようになったことです。誕生日パーティーの会話、旅行のカレンダーリマインダー、デバイスからの在庫切れシグナルなど、購買意図が生まれた瞬間にエージェントが動き出す世界が近づいています。

市場規模について、McKinseyは前回レポートで、控えめなシナリオでも2030年までにAIエージェントがグローバルで3〜5兆ドル、米国だけで最大1兆ドルの消費者コマースを仲介すると予測しています。Adobeのデータによれば、2025年7月時点で米国小売サイトへのGenAIサービスからの流入は前年同期比4,700%増を記録しています。

6段階の自動化カーブ

McKinseyのフレームワークでは、自動化の進展を6つのレベルで整理しています。重要なのは、これは「梯子」ではなく「カーブ」であるという点です。より高いレベルが常に良いわけではなく、目標は「最適な委任」です。

Level 0: プログラム的便利さ(セット&フォーゲット)

エージェント以前の基盤段階です。コーヒーポッド、洗剤、おむつなど消耗品の定期購入・自動配送が該当します。自動化はルールベースで有用ですが、ニーズが変わると対応できません。Amazonの「Subscribe & Save」が代表例で、2024年時点で米国Amazonユーザーの約23%が少なくとも1件のアクティブな定期購入を持っています。

Level 1: アシスト(認知サイドキック)

エージェントが買い物の「思考」を支援しますが、実行はしません。「75ドル以下で金曜日までに届くギフトを4つ探して」「3つのノイズキャンセリングヘッドホンの音質・バッテリー・快適性を比較して」といった分析的な役割を担います。カートもバスケットも取引の準備もありません。検索と比較を代替しますが、組み立てと実行は買い手に委ねられます。

Level 2: アセンブル(パーソナルショッパー)

質的な転換点です。エージェントが分析から「オーケストレーション」へと移行します。「150ドル以下で暖かい冬のコーディネートを組んで」と言えば、エージェントはトレードオフと制約を解決し、税金・送料・ロイヤルティ特典・代替品を処理して、チェックアウト可能なバスケットを返します。買い手の役割は「選択肢の比較」から「提案されたソリューションの承認・調整」に変わります。

Level 3: オーソライズ(監督付きの実行者)

消費者がアクションだけでなく「ルール」を委任する段階です。「食料品が120ドル以下で金曜18〜20時に届くなら注文して」「信頼できる販売者から好みのスニーカーが80ドル以下になったら買って」といった指示のもと、エージェントが端から端までワークフローを実行します。ルールから外れた場合のみ人間にエスカレーションします。

Level 4: オートノマイズ(意図のスチュワード)

単発の取引ではなく、継続的な目標に対してエージェントが運用する段階です。「家庭用品の月の支出を3万円以内に保って」「航空会社のロイヤルティステータスを最低コストで維持して」といった長期目標を設定すると、エージェントがニーズを予測し、複数のマーチャントを比較し、最適化を続けます。

Level 5: ネットワーク自律(マルチエージェントコマース)

まだ萌芽段階ですが、コマースがエージェント対エージェントでデフォルト化する世界です。パーソナルエージェントがマーチャントサイトだけでなく、価格最適化・物流・決済・ロイヤルティに特化したエージェントのネットワークと直接交渉します。意図がブローカリングされ、信頼がレピュテーションシグナルで伝達され、共有プロトコルで決済される「プロキュアメント・アズ・ア・サービス」の世界です。

カテゴリーによる委任の違い

McKinseyは、自動化が全カテゴリーで均一に進むわけではないと強調しています。

日用品や消耗品など「タスク型」のカテゴリーでは、委任がカーブを速く上昇します。エージェントの正確なバスケット構成と適切な代替品処理が確認されれば、消費者は実行を全面的に委任するようになります。ブランドの物語やフロントエンド体験より、運用の信頼性がものを言います。

一方、高級品やマイルストーン購入など「アイデンティティ型」のカテゴリーでは、委任はレベル1〜2で停滞します。消費者はエージェントにリサーチや分析を熱心に依頼しますが、最終的な購入決定は自分で行います。ここでの低い自律性は価値が低いことを意味しません。人間の関与そのものが商品の一部です。

旅行や家電など複雑な購買では、委任は「選択的」です。エージェントがリサーチ・比較・モニタリングを自律的に処理しつつ、判断が必要なトレードオフは人間にエスカレーションします。

EC事業者への影響と活用法

McKinseyのレポートとCIOの分析記事を踏まえると、EC事業者が取るべきアクションは明確です。

まず、「データ品質」が新たなショーウィンドーになります。AIエージェントはWebページを閲覧しません。構造化データをクエリします。クリーンなカタログ、一貫したメタデータ、リアルタイムの在庫フィードが、AIに「見つけてもらえるか」を決定します。

次に、「機械可読性」への投資が必須です。McKinseyは、カタログ・価格・在庫・送料・プロモーション・返品ロジックをAPIとして公開し、エージェントが人間レベルの精度でバスケットを構成できるようにすることを求めています。

そして、「エージェント認証」への対応も急務です。VisaやMastercardが開発するエージェント向け認証APIへの対応、予算・時間・カテゴリーで制限可能な購買認可、監査可能な取引ログの整備が必要です。

まとめ

McKinseyが提唱する「自動化カーブ」の本質は、エージェンティックコマースが単一のゴールに向かう直線的な進化ではなく、カテゴリーや文脈によって最適な委任レベルが異なるという点にあります。日用品では完全自動化が進む一方、高額品やアイデンティティに関わる購買では人間の関与が価値の一部であり続けます。

EC事業者にとっての競争軸は、「人の目を引くUI」から「AIエージェントが正確に理解できるデータ構造」へと移行しています。自社がこのカーブのどの段階に位置し、どのレベルを目指すべきかを見極めることが、2026年以降の競争戦略の出発点となります。

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