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Amazon、メディアコンテンツをAI企業に販売する「コンテンツマーケットプレイス」構築を検討――Microsoftに続きAI学習データ流通基盤の覇権争いが本格化

鈴木章広

鈴木章広

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2026/02/10

この記事のポイント

  1. AmazonがパブリッシャーのコンテンツをAI企業に販売するマーケットプレイスの構築を計画していると報じられた
  2. 先週MicrosoftがPublisher Content Marketplace(PCM)を発表したばかりで、AI学習データのライセンス基盤をめぐる競争が激化
  3. AI要約によるパブリッシャーのトラフィック激減が背景にあり、コンテンツライセンスがメディアの新たな収益源として浮上

AmazonがAIコンテンツマーケットプレイスの構築を計画

Amazon may launch a marketplace where media sites can sell their content to AI companies

Amazon may launch a marketplace where media sites can sell their content to AI companies

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Amazon is reportedly working on a marketplace that would allow media companies to sell their content to AI companies for training data.

2026年2月10日、The Informationの報道によると、Amazonはメディアパブリッシャーが自社コンテンツをAI企業に直接販売できるマーケットプレイスの構築を検討しています。AmazonはAWS主催のパブリッシャー向けカンファレンスに先立ち、コンテンツマーケットプレイスに言及したスライド資料を関係者に配布したとされています。

TechCrunchの取材に対し、Amazon広報はこの報道を否定せず、「Amazonはパブリッシャーとの長年にわたる革新的な関係を構築しており、常に顧客に最高のサービスを提供するために共に革新を続けていますが、現時点でこの件について具体的にお伝えできることはありません」とコメントしています。

背景と業界動向

AI学習データをめぐるコンテンツライセンスは、2026年のテック業界における最も重要なテーマの一つです。その背景には、3つの大きな構造変化があります。

第一に、著作権訴訟の急増です。 AI企業による無断学習をめぐる訴訟は50件を超え、2026年1月にはUniversal Music等がAnthropicに対して31億ドルの訴訟を起こすなど、法的リスクは拡大の一途をたどっています。米国著作権局も2025年5月にAI学習のフェアユース判断に関する包括的なガイダンスを公表し、特にジャーナリズム分野ではフェアユースが認められにくいという見解を示しています。

第二に、パブリッシャーのトラフィック危機です。 AI検索によるトラフィック減少は深刻で、AdExchangerによるとGoogleのオーガニック検索からニュースパブリッシャーへのトラフィックは世界で33%、米国では38%減少しています。Business Insiderはオーガニック検索トラフィックが55%減少し、スタッフの21%を削減しました。

第三に、AI学習データ市場そのものの急成長です。 MarketsandMarketsの調査では、AI学習データセット市場は2024年の26.8億ドルから2030年には111.6億ドルへ、年平均22%以上の成長が予測されています。

MicrosoftのPCM発表とAmazonの対抗構想

この領域で先手を打ったのはMicrosoftです。2026年2月4日、MicrosoftはPublisher Content Marketplace(PCM)を正式に発表しました。PCMの特徴は以下の通りです。

  • パブリッシャーが独自の価格設定とライセンス条件を設定可能
  • コンテンツの利用状況をレポートする透明性機能を搭載
  • Business Insider、Conde Nast、Hearst Magazines、AP通信、USA TODAY、Vox Mediaなど大手パブリッシャーが参画
  • Microsoft側は取引手数料を徴収(具体的な料率は非公開)

Amazonの構想は、Microsoftとは異なるアプローチが想定されます。PYMNTSの分析によると、AmazonはAWSのクラウドインフラとコンテンツマーケットプレイスを統合することで、AI開発者が学習データの調達とコンピューティングリソースのレンタルを一元的に行える環境を構築しようとしています。

Amazonにはすでにコンテンツライセンスの実績もあります。2025年にはNew York Timesと年間2,000万〜2,500万ドルのAIコンテンツライセンス契約を締結し、Alexa+には200以上のメディアのコンテンツが統合されています。こうした個別契約を標準化・プラットフォーム化するのが、今回のマーケットプレイス構想の狙いです。

パブリッシャー側は従量課金制(usage-based payment)を支持しているとされ、IndexBoxの報道では、書籍、記事、画像を対象とした体系的なライセンスセンターの形態が想定されています。

AWSのAIインフラ戦略との連動

コンテンツマーケットプレイス構想は、AWSのAI基盤ビジネス全体の文脈で理解する必要があります。WinBuzzerによると、AWSが提供するBedrock(基盤モデルプラットフォーム)との連携により、AI開発者は同一プラットフォーム上で学習データの調達からモデル訓練までを完結できます。

Citizens AnalystのAndrew Boone氏の分析では、AnthropicだけでもAWS上で推論に約70億ドル、学習に約120億ドルを2026年に支出する見込みであり、Amazonがその大半を獲得すると予測されています。コンテンツマーケットプレイスは、このインフラ投資に正当な学習データ供給を組み合わせることで、より包括的なAI開発プラットフォームを形成する位置づけです。

一方で、OpenAIはすでにAP通信、Vox Media、News Corp、The Atlanticなどと個別のコンテンツライセンス契約を結んでおり、その金額は年間100万〜500万ドル程度とされています。マーケットプレイス型に移行することで、パブリッシャーにとってはより有利な条件での交渉が可能になる可能性があります。

EC事業者への影響と活用法

Amazonのコンテンツマーケットプレイス構想は、EC事業者にとっても無関係ではありません。

AIショッピングアシスタントの情報品質向上への波及効果があります。 ライセンスされた高品質コンテンツでAIモデルが学習されることで、商品推薦やレビュー要約の精度が向上する可能性があります。Amazon自身のAlexaやRufusといったAIアシスタントがメディアコンテンツを活用した高品質な商品情報を提供できるようになれば、EC上のコンバージョン率にもプラスの影響が期待されます。

EC事業者が自社コンテンツの資産価値を再認識すべきタイミングです。 商品レビュー、バイヤーズガイド、専門コンテンツを保有するEC事業者にとって、そのコンテンツをAI学習データとしてライセンスする新たな収益機会が生まれる可能性があります。特にニッチカテゴリの専門知識やUGC(ユーザー生成コンテンツ)は、AIモデルの品質差別化において高い価値を持つ可能性があります。

著作権リスクへの備えも重要です。 米国では新たなAI著作権法案も提案されており、コンテンツ利用の適法性がますます問われます。EC事業者としては、自社サイトのコンテンツがAIによってスクレイピングされていないかを監視し、必要に応じてrobots.txtの設定やRSL(Really Simple Licensing)などのオープンスタンダードの導入を検討すべきです。

まとめ

Amazonのコンテンツマーケットプレイス構想は、AI学習データの調達を「個別交渉」から「プラットフォーム型マーケットプレイス」へと進化させる動きの一環です。Microsoftが先行してPCMを立ち上げ、Amazonが追随する構図は、まさにAI時代のコンテンツ流通基盤をめぐるプラットフォーム戦争の始まりを告げています。

パブリッシャーにとっては、AIによるトラフィック減少を補う新たな収益源として期待される一方、どのプラットフォームに委ねるかという戦略的判断が求められます。EC事業者にとっても、自社コンテンツ資産の棚卸しと、AIエコシステムへの組み込み戦略を検討する契機となるでしょう。

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