Google vs OpenAI:エージェンティックコマースのビジネスモデル戦争
鈴木章広
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Source: fourweekmba.com
この記事のポイント
- GoogleとOpenAIがエージェンティックコマースで異なる収益モデルを展開中
- Google: 広告収益モデル(Direct Offers)、OpenAI: 取引手数料モデル
- 両社のプロトコル(UCP/ACP/AP2)が業界標準を争う構図に
AIコマースにおけるビジネスモデルの分岐点

The Google-OpenAI Agentic Commerce Business Model War
Two giants, two fundamentally different bets on how AI commerce should work. Google preserves its advertising empire by embedding 'Direct Offers' into conversational AI. OpenAI takes transaction fees on actual purchases—no ads, purely organic.
2025年から2026年にかけて、エージェンティックコマースの主導権をめぐる戦いが本格化しています。しかし、これは単なる機能競争ではありません。GoogleとOpenAIが、AI時代のコマースにおける根本的に異なるビジネスモデルを賭けた経済戦争を展開しています。この戦いの勝者が、今後10年のAIコマースの経済構造を決定することになります。
Googleの戦略:広告帝国の防衛
Direct Offersによる広告モデル維持
Googleは2026年1月のNRF(全米小売業協会)カンファレンスで、AIモードでのショッピング体験に「Direct Offers」を導入することを発表しました。これは、小売業者がAIモードの検索結果内で限定オファーを提示できる新しい広告パイロットプログラムです。
この戦略の背景には、Googleの年間2,370億ドル以上に及ぶ広告収益を守る必要性があります。従来のGoogle検索では、ユーザーが検索結果をクリックして小売サイトへ移動することで広告収益が発生していました。しかし、AIモード内で取引が完結すると、そのクリック数が減少し、広告収益が脅かされます。
Googleのアプローチは、CPC(クリック単価)課金モデルを維持しながら、AIエージェント経由の購買にも広告を組み込むというものです。購入自体からは手数料を取らず、代わりに小売業者に広告枠を販売します。
Universal Commerce Protocol(UCP)の展開
Googleは2026年1月11日、AIエージェント向けの新しいオープン標準「Universal Commerce Protocol(UCP)」を発表しました。このプロトコルは、Shopify、Etsy、Wayfair、Target、Walmartといった大手企業と共同で開発されました。
現在、20社以上がUCPを支持しており、Home Depot、Best Buy、Macy's、Mastercard、Visa、PayPalなどが名を連ねています。
Shopping Graphの優位性
GoogleはGemini AIとShopping Graphの組み合わせで、強力な競争優位性を持っています。Shopping Graphには500億件以上の商品リストが含まれ、1時間あたり20億回以上更新されています。価格、レビュー、在庫状況がリアルタイムで反映されます。
Geminiアプリは現在6億5,000万人の月間アクティブユーザーを抱えており、前年比約15%の成長を記録しています。このユーザーベースに対して、UCPを通じたAIショッピング体験を提供できる点は、Googleの大きな強みとなっています。
OpenAIの戦略:取引手数料モデルへの賭け
Instant Checkoutと取引手数料
OpenAIは2025年9月、ChatGPTに「Instant Checkout」機能を導入しました。この機能により、ユーザーはチャット内で直接商品を購入できます。重要なのは、この機能が広告ではなく、取引手数料モデルで収益化されている点です。
OpenAIのアプローチには明確な哲学があります。商品のレコメンデーションは完全にオーガニック(広告なし)であり、関連性のみでランキングされます。小売業者は完了した購入に対してのみ少額の手数料を支払い、ユーザーには無料で提供されます。価格への影響もありません。
Sam Altman氏は「ホテルを予約した場合に取引手数料を受け取ることには前向き」と発言しています。その理由は、手数料がChatGPTの推薦内容に影響を与えないため、ユーザーの信頼を維持できるからです。
Agentic Commerce Protocol(ACP)
OpenAIはStripeと共同で「Agentic Commerce Protocol(ACP)」を開発しました。このプロトコルはApache 2.0ライセンスでオープンソース化されており、特定のベンダーに依存しない設計となっています。
ACPの核となるのは「Shared Payment Token(SPT)」です。このトークンは特定の小売業者と購入金額に紐付けられており、購入者の決済情報を露出させることなく取引を完了できます。
現在、米国のEtsy出品者、100万以上のShopify店舗(Glossier、SKIMS、Spanxなど)が対応しています。Walmart、Target、L'Oreal、Pandora、Saksなども参加を表明しています。
PayPalとの提携強化
2025年10月、OpenAIはPayPalとの提携を発表しました。これにより、数百万人のChatGPTユーザーがPayPalを使ってInstant Checkoutを利用できるようになります。PayPalはまた、OpenAI Instant Checkoutを利用する小売業者向けの決済処理もサポートします。
プロトコル戦争:ACP vs AP2 vs UCP
三つのプロトコルの役割分担
エージェンティックコマースの標準化をめぐり、複数のプロトコルが登場しています。これらは競合するというよりも、相補的な役割を果たしています。
| プロトコル | 主導企業 | 役割 | 特徴 |
|---|---|---|---|
| ACP | OpenAI/Stripe | チェックアウト層 | 会話型AIでの購入フロー |
| AP2 | 認可層 | 信頼と同意の通信標準 | |
| UCP | 統合層 | 全コマースジャーニーの統合 |
Agent Payments Protocol(AP2)の仕組み
GoogleのAP2は2025年9月にリリースされました。60以上の組織がパートナーとして参加しており、Mastercard、PayPal、American Express、Coinbase、Adyenなどが含まれます。
AP2の核心は「Mandate(委任)」という概念です。これはデジタル署名された声明として機能し、エージェントが実行可能なアクション(カート作成、購入完了、サブスクリプション管理など)を定義します。この委任は移植可能、検証可能、取り消し可能であり、複数のステークホルダーが安全に連携できます。
相互運用性の重要性
大企業にとって、どちらか一方のプロトコルを選ぶ必要はありません。ShopifyはOpenAIのACPとGoogleのUCPの両方に参加しています。同様に、Walmartも2025年10月にOpenAIと提携し、2026年1月にはGoogleとも提携を発表しました。
この「両陣営参加」戦略は、どちらのAIプラットフォームが消費者に支持されるか不確実な現状において、リスクを分散する賢明な選択と言えます。
ビジネスモデル戦争の本質
アテンションエコノミー vs トランザクションエコノミー
この戦いの本質は「何で利益を得るか」という根本的な違いにあります。
Googleのモデル:アテンションから利益を得る- ユーザーの注目(アテンション)を集め、広告主に販売
- 検索結果やAIレスポンスへの広告挿入で収益化
- 購入が成立しなくても、クリックで収益発生
- 実際の取引完了時にのみ手数料を取得
- 広告なしでオーガニックな推薦を維持
- ユーザーの信頼がビジネスの基盤
市場規模と成長予測
McKinseyの予測によると、2030年までにAIツールとエージェンティックコマースによる小売市場は、グローバルで3兆〜5兆ドルの機会になる可能性があります。
Salesforceのデータでは、2025年のホリデーシーズンにおいて、AIとエージェントが小売売上の約20%(グローバルで約2,720億ドル)を牽引しました。Adobeによると、ホリデー期間中のAI経由のサイトトラフィックは前年比693%増加しています。
EC事業者への影響と活用法
マルチプラットフォーム対応の必要性
EC事業者にとって、GoogleとOpenAIのどちらが勝つかを予測して一方に賭けるのはリスクが高い選択です。WalmartやShopifyのように、両方のプラットフォームに対応することで、どちらのAIが主流になっても販売機会を逃さない体制を構築できます。
プロトコル対応の優先順位
- Shopify利用者:ACPとUCPの両方に自動対応される可能性が高い
- 独自ECサイト運営者:UCP対応を検討し、Google Merchant Center連携を優先
- Etsy出品者:すでにInstant Checkout対応済み
決済体験の重要性
AIエージェント経由の購入では、決済のシームレスさが競争力に直結します。Google Pay、PayPal、Shop Payなど、主要な決済手段への対応は必須となります。また、SPT(Shared Payment Token)のような新しい仕組みにも注目が必要です。
まとめ
GoogleとOpenAIのエージェンティックコマース戦争は、単なる技術競争ではありません。年間2,370億ドルの広告収益を守りたいGoogleと、取引手数料という新しい収益モデルを構築したいOpenAIの、ビジネスモデル戦争です。
Googleは「ユーザーはAI内の広告を受け入れる」と賭けています。OpenAIは「受け入れない」と賭けています。どちらが正しいかは、今後数年で明らかになります。
EC事業者にとって重要なのは、特定の陣営に偏らず、両プラットフォームへの対応を進めることです。プロトコル(UCP、ACP、AP2)の標準化が進む中、早期に対応体制を整えた企業が競争優位を獲得できます。
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