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PayPalがイスラエルのCymbioを買収——「Store Sync」でエージェンティックコマースの主導権を狙う

鈴木章広

鈴木章広

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2026/02/02

この記事のポイント

  1. PayPalがマルチチャネル基盤Cymbioを数億ドル規模で買収、AIコマースに本格参入
  2. AI検索・チャットボット経由の商品発見が急拡大、決済大手の陣取り合戦が激化
  3. EC事業者はAIサーフェス対応の準備を今から始めるべき段階に入った

PayPal、Cymbio買収を正式発表

PayPal to Acquire Cymbio, Accelerating Agentic Commerce Capabilities

PayPal to Acquire Cymbio, Accelerating Agentic Commerce Capabilities

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PayPal acquires Cymbio, a multi-channel orchestration platform, to accelerate its agentic commerce capabilities including Store Sync.

2026年1月22日、PayPal(NASDAQ: PYPL)はイスラエル・テルアビブ拠点のマルチチャネルオーケストレーションプラットフォーム「Cymbio」の買収を発表しました。買収金額は非公開ですが、イスラエルメディアは数億ドル規模と報じています。取引は2026年上半期にクローズ予定です。

Cymbioは2015年にRoy Avidor、Mor Lavi、Gilad Zirkelの3名が創業し、これまでに3,500万ドル以上を調達しています。PayPal Venturesは2022年の段階で同社に投資しており、今回の買収は既存のパートナーシップを深化させるものです。

背景と業界動向

エージェンティックコマース」とは、AIアシスタントやチャットボットが消費者に代わって商品を発見・比較・購入する新しい商取引の形態です。Microsoft Copilot、Perplexity、ChatGPT、Google Geminiといった「AIサーフェス」が急速に普及するなか、従来の検索エンジン経由ではなくAI対話経由で商品が発見される時代が到来しつつあります。

この領域では決済大手による陣取り合戦が激化しています。Forresterのレポートによれば、Amazon、Visa、Google、PayPal、Stripeがいずれもエージェンティックコマースへの対応策を打ち出しています。特にStripeはOpenAIと共同で「Agentic Commerce Protocol(ACP)」を策定し、ChatGPTの「Instant Checkout」やMicrosoftの「Copilot Checkout」のインフラを担っています。

一方でPayPalは、4億人の消費者と3,500万の加盟店という「両面ネットワーク」を武器に、プロトコル層ではなく「信頼と決済のレイヤー」としてのポジションを確立しようとしています。今回のCymbio買収は、その戦略の中核を成すものです。

Store Syncの仕組みとCymbioの役割

買収後、Cymbioのチームと技術はPayPalの「Store Sync」サービスに統合されます。Store Syncは、マーチャントの商品データ(カタログ、在庫、価格)をAIチャネルから発見可能にするサービスです。

Store Syncの特徴は以下の3点です。

マーチャントがmerchant of recordを維持できる点が最大の差別化ポイントです。AIサーフェス経由で注文が入っても、受注・履行・顧客対応はすべてマーチャント側が管理します。ブランドのコントロールと顧客との直接関係を手放す必要がありません。

既存の物流・受注管理システムとシームレスに連携する点も重要です。Cymbioのオーケストレーション技術により、AIチャネルからの注文はマーチャントの既存のフルフィルメントシステムに自動的にルーティングされます。

対応AIプラットフォームの拡大も進んでいます。現在、Abercrombie & Fitch、Fabletics、Ashley Furniture、Newegg、AdoramaがMicrosoft CopilotおよびPerplexity上でStore Syncを利用中です。さらにOpenAI ChatGPTとGoogle Geminiへの対応も「近日中」と発表されています。

EC事業者への影響と活用法

今回の買収がEC事業者に示す最大のメッセージは、「AIサーフェスが新たな販売チャネルになる」という現実が具体的なサービスとして動き始めたことです。

短期的に検討すべきこととして、まずPayPalのStore Syncへの参加を検討する価値があります。既にPayPalを決済手段として導入している事業者であれば、追加のインテグレーション負荷は比較的小さいと考えられます。

注意すべき点として、エージェンティックコマースはまだ黎明期にあります。Nasdaqの分析によれば、PayPalのブランデッド決済ボリュームの成長率は6%から5%に減速しており、エージェンティックコマースが既存事業の成長を補えるかはまだ不透明です。

一方で、StripeのACPやGoogleのUniversal Commerce Protocol(UCP)など、複数のプロトコルが並立する状況も見えています。EC事業者としては、特定のプラットフォームに過度に依存せず、複数のAIチャネルへの対応を柔軟に進めることが重要です。

まとめ

PayPalのCymbio買収は、エージェンティックコマースが「構想段階」から「実装段階」に移行したことを象徴する出来事です。StripeがOpenAIとプロトコル層で先行するなか、PayPalは両面ネットワークとStore Syncを武器に独自のポジションを築こうとしています。

今後の注目ポイントは、Store SyncのChatGPTおよびGemini対応のタイミング、そしてACPやUCPといったオープンプロトコルとの互換性がどこまで確保されるかです。EC事業者にとっては、2026年がAIチャネル対応の戦略を本格的に検討すべき年になります。

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