AIが中国の消費コマースを書き換える――消費低迷の中でプラットフォームが選んだ「アルゴリズム経営」
鈴木章広
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Source: www.barrons.com
この記事のポイント
- 中国の大手ECプラットフォーム(Alibaba、JD.com、Pinduoduoなど)が、消費低迷下でAIアルゴリズムを全面的に導入し、利益率の防衛と競争優位の確立に動いている
- 世界最大のEC市場・中国での動きは、AI×コマースの未来形を示しており、グローバルなEC事業者にとって先行指標となる
- AIによるパーソナライゼーションと需要予測は「あれば便利」から「生存条件」へと変わりつつある
消費低迷の中国、プラットフォームはAIで利益を守る
How AI Is Rewriting Consumer Commerce in China - Barron's
As spending slows, platforms are turning to algorithms to protect margins and reshape competition.
2026年2月1日、米金融メディアBarron'sがTanner Brown記者の署名記事として「How AI Is Rewriting Consumer Commerce in China」を公開しました。中国の消費回復が政策当局の期待を下回る中、Alibaba、JD.com、ByteDanceといった大手テックプラットフォームがAIアルゴリズムを活用してマージンを守り、競争構造そのものを再定義しようとしている実態を報じています。
背景と業界動向
中国の小売売上高は2025年に前年比わずか3.7%の成長にとどまり、消費者の家計債務対GDP比は59.4%まで低下しました。これは1995年以来初の四半期ベースでの債務減少であり、家計部門が積極的にデレバレッジ(負債削減)を進めていることを意味します。住宅価格の下落と所得成長の鈍化を背景に、消費者は「量の節制」から「質の精査」へとシフトし、購買に対してより合理的な姿勢を強めています。
一方で、中国のオンライン小売浸透率は86.9%に達し、ユーザー数は約10億人に迫っています。新規ユーザー獲得による成長はほぼ限界に達しており、プラットフォーム各社は既存ユーザーの「ウォレットシェア」をいかに拡大するかという戦いにシフトしています。
アルゴリズム経営の実態――各社のAI戦略
Alibaba:エコシステム全体のAI化
Alibabaは2025年度に約1,200億人民元をAI・クラウドインフラに投資しました。クラウド部門の売上は前年比34%増と急成長し、AI関連ワークロードは8四半期連続で3桁成長を記録しています。自社開発のAIチャットボット「Qwen」をTaobao、Alipay、Fliggyと連携させ、商品比較から決済までをAIインターフェース内で完結させる「エージェンティックコマース」を推進しています。
ただし、その代償は大きく、Q2 FY2026の純利益は前年比53%減、フリーキャッシュフローはマイナスに転落しています。経営陣はAIインフラ投資とユーザー獲得を短期的な利益よりも優先する姿勢を明確にしています。
JD.com:データ駆動のパーソナライゼーション
JD.comは4億人超のアクティブユーザーに対し、商品発見・ダイナミックプライシング・コンテンツパーソナライゼーションの各領域で高度なAIアルゴリズムを展開しています。需要予測アルゴリズムにより在庫コストを推定30%削減するなど、自社物流網との統合による効率化を進めています。一方で、「JD Takeaway」によるデリバリー市場への参入はMeituanやEle.meとの補助金戦争を引き起こし、利益は50%以上急落しました。
ByteDance・Tencent:スーパーアプリのAI化
ByteDanceは自社AI「Doubao」をチケット予約などシステムレベルのタスクに拡張し、TencentはWeChat内でのAI統合を開発中です。CNBCの報道によれば、各社の競争優位はAI技術の高度さよりも「エコシステムの深さ」にあり、サービスを最大限統合したクローズドループ型のシステムがユーザーの囲い込みを生んでいます。
EC事業者への影響と活用法
中国市場で起きている変化は、グローバルのEC事業者にとって3つの重要な示唆を含んでいます。
1. AIパーソナライゼーションは「標準装備」へAlibabaのAIツールはコンバージョン率を35%向上させ、直帰率を50%削減したとの報告があります。消費者が合理的な購買判断を強める中、「欲しいものを的確に提示する」能力は競争力の根幹となっています。
2. 需要予測による在庫最適化中国各社が実証しているように、予測アルゴリズムによる在庫コスト30%削減は、利益率が圧迫される環境下でのサバイバル戦略です。日本のEC事業者も同様のアプローチを検討すべきタイミングに来ています。
3. 「エージェンティックコマース」への備えAIチャットボットが商品検索から決済までを一気通貫で処理する時代が到来しつつあります。McKinseyの予測では、2030年までにエージェンティックコマースの市場規模は年間3兆〜5兆ドルに達するとされています。従来のSEOやモール内アルゴリズム対策だけでなく、AIエージェントに「選ばれる」商品力とブランド力がものを言う世界への準備が求められます。
まとめ
中国の消費低迷は、逆説的にAIコマースの進化を加速させています。プラットフォーム各社は短期的な利益を犠牲にしてでもAIインフラに投資し、アルゴリズムによる効率化とユーザー体験の高度化で「消費が伸びなくても利益を守れる構造」を構築しようとしています。この動きは中国固有の現象ではなく、消費成長が鈍化するあらゆる市場で今後起こりうるシナリオです。EC事業者にとって、AIは「未来のテクノロジー」ではなく「今日の経営課題」として向き合うべき段階に入っています。
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