Alibaba、主力AIアプリ「Qwen」にショッピング機能を統合:エージェントAI時代の本格到来
鈴木章広
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Source: www.alizila.com
この記事のポイント
- AlibabaがQwenアプリにTaobao、Alipay、Fliggyなどを統合し、会話だけで購買完結が可能に
- 中国テック大手がAI×EC市場で激しい競争、月間数十億円規模の投資が継続中
- 日本のEC事業者は「会話型コマース」への対応と決済・物流統合の検討が急務
AlibabaがQwenアプリを大幅アップグレード

Alibaba's Qwen App Advances Agentic AI Strategy
Alibaba turns core ecosystem services into executable AI capabilities with major Qwen app update.
2026年1月15日、中国EC最大手のAlibabaは、同社の主力AIアシスタントアプリ「Qwen」に大規模なアップデートを実施しました。Taobao(淘宝)、Alipay(支付宝)、旅行予約サービスFliggy、地図サービスAmapなど、同社エコシステムの主要サービスを統合しています。
これにより、ユーザーは音声またはテキストで指示するだけで、商品検索から購入、決済まで、アプリを切り替えることなく完結できるようになります。Alibaba副社長のWu Jia氏は発表イベントで「理解するAIから、行動するAIへの転換」と表現しています。
Qwenアプリは2024年11月のパブリックベータ開始からわずか2ヶ月で、月間アクティブユーザー(MAU)が1億人を突破しました。11月には前月比149%増という驚異的な成長率を記録し、世界で最も急成長するAIアプリとなっています。
背景と業界動向:中国AI×EC市場の熾烈な競争
ByteDanceとの覇権争い
中国のAI消費者市場では、AlibabaとByteDanceが激しい競争を繰り広げています。ByteDanceのAIアプリ「Doubao(豆包)」は、2025年9月時点で1億7,200万のMAUを抱え、中国で最も利用されるAIアプリの地位を確立しています。
ByteDanceは2025年10月中旬、DoubaoにECショッピング機能を先行統合しました。ユーザーが「北方の家庭向け加湿器を推薦して」と入力すると、数秒で5つの商品が提案され、抖音(Douyin)のショッピングプラットフォームへ直接遷移します。約30秒で商品閲覧から決済まで完了できる設計となっています。
巨額投資の実態
中国テック大手3社(ByteDance、Alibaba、Tencent)は、AIショッピングツールに月間約3億元(約42億円)を投資していると推定されています。これは2025年の「独身の日」(Singles Day)セールを前にした投資額であり、市場シェア獲得に向けた競争の激しさを物語っています。
中国のEC市場規模は年間約15兆元(約210兆円)に達します。抖音(Douyin)は2024年に3.5兆元のシェアを獲得し、市場の23%を占めています。一方、Alibabaのプラットフォームは依然として8兆元超の規模で首位を維持しています。
Qwenアプリの新機能詳細
エンドツーエンドの購買体験
今回のアップデートで実現した主要機能は以下の通りです。
ショッピング機能(Taobao統合)- 会話形式で商品を発見・推薦
- 曖昧な要望や複雑なリクエストにも対応
- Taobaoの商品データと消費者レビューを活用
- 現時点では一部カテゴリで先行テスト中
- 会話を離れることなくネイティブAI決済が可能
- ユーザーの明示的な承認のみで取引完了
- フードデリバリーから旅行予約まで対応
- 旅程の設計と比較
- フライト・ホテル・観光スポットの予約
- ルート案内とナビゲーション
- レストランへの実際の電話発信
- 通話内容の書き起こし生成
- 最大100件の文書を同時処理
- Webアプリケーションの構築
デモンストレーション事例
発表イベントでは、実際の利用シーンがライブで披露されました。
Wu Jia副社長は音声コマンドだけで地元のミルクティーチェーンから40杯のドリンクを注文しました。アプリは自動的に割引を適用し、アプリ内で決済を完了しています。また、猫を飼っている家庭向けのロボット掃除機の購入推奨や、海南島への家族旅行のフライト・ホテル予約なども実演されました。
ただし、現時点ではハイキング用セーターの購入リンク生成には対応できないなど、全カテゴリへの統合は完了していないことも明らかになっています。
Alibaba AIエコシステムの全体像
オープンソース戦略の成功
Alibabaが開発する大規模言語モデル「Qwen」ファミリーは、開発者プラットフォームHugging Faceで累計7億ダウンロードを突破しました。2024年10月時点でMetaのLlamaを抜き、世界で最も利用されるオープンソースAIシステムとなっています。
2025年12月の単月ダウンロード数は、Meta、DeepSeek、OpenAI、Mistral、Nvidia、智譜AI、Moonshot、MiniMaxの上位8モデルの合計を上回りました。
Qwenファミリーは119の言語と方言に対応し、6億パラメータの小型モデルから数百億パラメータの大型モデルまで、約400のモデルを公開しています。派生バージョンは18万以上に達しています。
530億ドル超の大型投資
AlibabaのCEO Eddie Wu氏は、今後3年間でAIインフラに3,800億元(約530億ドル)以上を投資すると発表しています。これは過去10年間のAI・クラウドコンピューティング投資の総額を上回る規模です。
投資計画には、ブラジル、フランス、オランダへの初の海外データセンター開設、さらにマレーシア、ドバイ、メキシコ、日本、韓国への拡張が含まれています。Wu氏は「世界をリードするフルスタックAIサービスプロバイダー」を目指すと述べています。
EC事業者への影響と活用法
「エージェントAI」がもたらす変革
今回のQwenアップデートは、「エージェンティックコマース」と呼ばれる新たなトレンドの象徴です。従来のチャットボットが「質問に回答する」だけだったのに対し、エージェントAIは「実際にタスクを実行する」能力を持っています。
Amazon、Meta、Googleなど世界のテック大手も同様の方向を目指しています。特にAlibabaやTencentのような「スーパーアプリ」を持つ企業は、既に数百のサービスを統合しているため、初期段階で優位性があると考えられます。
日本のEC事業者が検討すべきポイント
短期的な対応(1-2年)-
会話型インターフェースの導入検討
- チャットボットの高度化
- 音声コマンドへの対応準備
- LINEやメッセンジャー連携の強化
-
商品データの構造化
- AIが理解しやすい商品説明の整備
- 属性情報・レビューデータの充実
- 多言語対応の検討
-
決済・物流の統合戦略
- ワンストップ体験の設計
- 決済代行サービスとのAPI連携
- 即時配達インフラとの接続
-
AIエコシステムへの参画
- 大手プラットフォームのAI機能活用
- 自社AIアシスタントとの連携検討
- 商品データのフィード最適化
注意すべきリスク
中国市場で見られる「AIショッピングのパラドックス」には注意が必要です。技術的には洗練されていても、収益化モデルが確立されていない状況があります。AIが中立的な推奨を行うほど、従来の広告・手数料モデルとの矛盾が生じる可能性があります。
また、スタンドアロンのAIスタートアップが参入障壁に直面している点も示唆的です。決済、物流、加盟店ネットワークを持つプラットフォーム事業者が優位であり、これは「アプリケーション競争」ではなく「プラットフォーム戦争」と捉えるべき構図となっています。
まとめ
AlibabaのQwenアプリ統合は、AI技術がEC業界に本格的な変革をもたらす転換点を示しています。「会話するだけで買い物が完了する」という体験は、消費者の購買行動を根本から変える可能性を秘めています。
中国市場では既にByteDanceとAlibabaが月間数十億円規模の投資を行い、AI×EC市場の覇権を争っています。この競争から生まれるイノベーションは、遅かれ早かれグローバル市場にも波及すると予想されます。
日本のEC事業者にとっては、この動向を注視しつつ、会話型インターフェースや商品データの構造化など、段階的な準備を進めることが重要となります。エージェントAIの時代に向けた体制構築が、今後の競争優位性を左右する可能性があります。
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