エージェンティックコマースはEC普及の数倍速で拡大へ――「最速の学習者」が勝つ新時代の到来
鈴木章広
Twitter
Source: fortune.com
この記事のポイント
- Publicis Sapientの専門家がFortune誌で「エージェンティックコマースは3〜5年でEC売上の10%に到達する」と予測。ECが同水準に達するまで20年以上かかったのとは対照的
- Shopify・OpenAI・Google・Amazonが標準プロトコルと決済基盤を整備し、中小事業者でもAI会話経由の販売が即座に可能になりつつある
- 「待ちの姿勢」は致命的。AIが生成するデータという副産物を早期に獲得し、学習サイクルを回した事業者が市場の主導権を握る
「最大の小売業者」ではなく「最速の学習者」が勝つ

Agentic commerce will reward the fastest learners, not the biggest retailers | Fortune
Agentic commerce could reach scale far faster than e-commerce ever did — and digital markets rarely reward late movers.
2026年2月10日、Fortune誌に掲載されたPublicis Sapient マネージングディレクター Simon James氏の寄稿が、業界に一石を投じています。James氏はデータ&AI戦略の専門家として20年以上の経験を持ち、エージェンティックコマース(AIエージェントが消費者に代わって商品の発見・比較・購入を完結する商取引モデル)の成長速度について注目すべき予測を示しました。同氏の主張の核心は明確です。ECが世界の小売売上の16%に達するまで20年以上かかった一方、エージェンティックコマースは「3〜5年で10%に到達する」というものです。
背景と業界動向
この予測が単なる楽観論ではない根拠は、すでに構築済みの巨大なユーザー基盤にあります。OpenAIのChatGPTは週間アクティブユーザー8億人、Google AIは月間アクティブユーザー15億人を擁しています。ECが立ち上がった時代とは異なり、55億人がすでにオンラインに接続しており、エージェンティックコマースは「ゼロからオーディエンスを構築する」必要がありません。
Morgan Stanleyの2025年12月のレポートは、AIエージェント経由の購買が2030年までに米国EC売上の1,900億〜3,850億ドル(市場シェア10〜20%)を占めると推計しています。McKinseyはさらに大きな数字を示し、世界全体で3兆〜5兆ドルの新規事業機会が生まれると予測しています。
消費者側の行動変容もすでに始まっています。Morgan StanleyのAlphaWise調査によると、米国ではすでに約23%の消費者が過去1カ月間にAI経由で商品を購入した経験があります。IBM Institute for Business Valueの2026年1月の調査では、消費者の45%が購買プロセスの少なくとも一部でAIを利用していると報告されています。
OpenAI・Shopify・Googleが構築する「三つのプロトコル」
エージェンティックコマースの急速な拡大を可能にしているのは、プラットフォーム各社が整備を進める標準プロトコルです。Fortune誌の記事でも重要な事例として取り上げられたShopifyとOpenAIの提携を軸に、現在3つの主要な取り組みが進行しています。
OpenAIのAgentic Commerce Protocol(ACP)は、2025年9月にChatGPTの「Instant Checkout」機能とともに発表されました。Stripeと共同開発したオープンスタンダードで、AIエージェント・消費者・事業者の三者間取引を標準化します。米国のEtsyセラーから開始し、Glossier、SKIMS、Spanx、Vuoriなど100万以上のShopifyマーチャントへの展開が進んでいます。
ShopifyとGoogleのUniversal Commerce Protocol(UCP)は、2026年1月のNRFカンファレンスでGoogleが発表したもう一つのオープン標準です。Shopify、Etsy、Wayfair、Target、Walmartが共同開発し、Adyen、Mastercard、Visa、Stripeなど20社以上が参加しています。Google検索のAIモードやGeminiアプリ内での直接チェックアウトを実現します。
ShopifyのAgentic Storefrontsは、マーチャントが一度の設定でChatGPT、Microsoft Copilot、Google AI Modeなど複数のAIプラットフォームに商品を展開できる機能です。さらに「Agentic plan」により、Shopifyのオンラインストアを持たないブランドでもAIチャネル経由の販売が可能になりました。
James氏が指摘する通り、この動きの本質は「Shopifyが、すべての中小事業者にAIコマース対応の能力をもたらしている」点にあります。Fortune 500の大手小売業者にとって、中堅企業がShopify経由で即座にAI販売に対応できる状況は、自社の開発スピードに対する強い圧力になっています。
「AIの排気ガス」が本当の金脈――早期参入の戦略的優位
Fortune誌の記事で最も示唆に富む指摘は、James氏が「AIの排気ガス(exhaust)こそが本当の金(gold)だ」と述べた部分です。AIエージェント経由の取引から生まれるデータ――何が売上につながり、何がつながらないのか、消費者はどのような質問をするのか――は、従来の手段では取得できなかった情報です。
このデータが重要な理由は3つあります。第一に、商品推薦アルゴリズムの最適化に直結します。第二に、プロモーション戦略の精緻化を可能にします。第三に、返品対応やカスタマーサポートのプロセス改善に活用できます。Microsoftの業界ブログが「会話のたびにフィードバックループが強化される」と指摘する通り、早期に参入した事業者は学習サイクルの複利効果を享受できます。
James氏はデジタル市場における「勝者総取り」の構造にも言及しています。「Amazonに次ぐ2位は誰か。名前を挙げるのは難しい」という問いかけは、エージェンティックコマースでも同じ構造が再現される可能性を示唆しています。AIエージェントが特定のカテゴリーの質問に対して推薦する「デフォルトの回答」のポジションを一度失うと、取り戻すのは極めて困難です。
EC事業者への影響と活用法
今週発表予定のShopifyのQ4 2025決算は、エージェンティックコマースの初期シグナルを読み取る最初の機会として注目されています。Q3 2025時点でShopifyストアへのAIドリブントラフィックは7倍、AI検索経由の注文は11倍に急増しています。決算の数字自体に大きな影響はなくとも、James氏は「ビジネスの将来価値に対しては不釣り合いなほど重要だ」と指摘しています。
EC事業者が今取るべきアクションは明確です。まず、AIプラットフォームへの商品データ最適化です。Shopifyマーチャントであれば「Agentic Storefronts」の設定を、独自ECであればUCPやACP対応のAPI整備を優先すべきです。
次に、早期のデータ収集と学習サイクルの構築です。James氏が「2〜3年待ってから参入すると、世代ゼロからスタートすることになる」と警告する通り、後発者は先行者が蓄積した学習を追いかける不利な立場に置かれます。
さらに、複数AIプラットフォームへの分散展開も重要です。ChatGPT、Google AI Mode、Microsoft Copilotなど、AIエンジンごとに異なる最適化が求められます。Shopifyの「Agentic Storefronts」はこの複数プラットフォーム対応を一元化する設計となっており、中小事業者にとっては有力な選択肢です。
まとめ
Fortune誌のJames氏の予測が示すのは、エージェンティックコマースが「来るかどうか」ではなく「どれだけ速く来るか」という段階に入ったという現実です。ECの歴史が20年かけて証明した「デジタル市場は後発者に厳しい」という教訓は、AIコマースの時代にはさらに加速した形で繰り返される可能性があります。
今週のShopify決算は、エージェンティックコマースの「第一四半期のリアルデータ」として業界全体が注視するイベントとなります。売上への直接的なインパクトは限定的でも、AI経由のトラフィックと注文の成長率、そしてマーチャントの導入状況に関するナラティブは、今後の投資判断と事業戦略に大きな影響を与えるでしょう。Fortune誌が「最大の小売業者ではなく、最速の学習者が勝つ」と題した本記事のメッセージは、EC事業者にとって行動の緊急性を突きつけるものです。
関連記事

エージェンティックコマースとは?AIが購買を代行する新時代を解説
エージェンティックコマースの全貌を解説。AIエージェントがユーザーに代わって商品選定から決済までを自律的に実行。AI経由トラフィック4,700%増、ウォルマートの20%がChatGPT経由という衝撃のデータと共に、企業が今すぐ始めるべき3つの準備ステップを紹介します。

ShopifyがGoogle・Microsoft両陣営とエージェンティックコマースで提携、全方位戦略を展開
ShopifyがGoogleのUCPを共同開発しMicrosoft Copilot Checkoutにも連携。ECプラットフォームとして「どのAIでも買える」環境を構築。

Google vs OpenAI:エージェンティックコマースのビジネスモデル戦争
GoogleとOpenAIがエージェンティックコマースで異なる収益モデルを展開。広告モデル vs 取引手数料モデル、UCP vs ACP vs AP2のプロトコル戦争を解説。

