O'Reillyが解説する「エージェンティックコマース革命」――プロトコルの先にあるAI-first時代のビジネス再設計
鈴木章広
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Source: www.oreilly.com
この記事のポイント
- O'Reilly Mediaがエージェンティックコマースの全体像を解説する長編記事を公開
- ACP(OpenAI/Stripe)とUCP+AP2(Google/Shopify連合)の2つの思想が競い合い、商取引の根本構造が変わる
- EC事業者はAPIファースト対応と「エージェントSEO」という新たな競争領域への備えが急務
O'Reilly Radarが示す「商取引の再設計」

The Agentic Commerce Revolution – O'Reilly
Beyond protocols: How to rearchitect your business for an AI-first world
2026年2月5日、テクノロジー出版大手O'Reilly Mediaは、自社メディア「O'Reilly Radar」にて「The Agentic Commerce Revolution」と題した長編記事を公開しました。著者はAI・ML分野の専門家であるHeiko Hotz氏です。
記事の核心は明確です。30年間「Webサイトに行って買い物をする」というモデルで成り立ってきたデジタルコマースが、AIエージェントの台頭によって根本から覆されようとしている、という主張です。商品の「発見」は検索バーから会話へ、「比較」は人間の手作業からエージェントの自律処理へ、そして「決済」はクリック操作からバックグラウンドのAPI呼び出しへと変わっていきます。
BearingPointが320名以上のC-suite経営者を対象に実施した2025年の調査では、2028年までにB2B取引の半数以上が会話型インターフェースを通じて行われると予測されています。
背景と業界動向
エージェンティックコマースを巡る動きは、2025年後半から急速に具体化しています。2025年9月にはGoogleがAgent Payments Protocol(AP2)を発表し、Adyen、American Express、Mastercard、PayPalなど60以上の企業と連携を開始しました。同時期にOpenAIとStripeがAgentic Commerce Protocol(ACP)を共同開発し、ChatGPTでの即時チェックアウト機能をリリースしています。
2026年1月には、Googleが「Universal Commerce Protocol(UCP)」を発表。Shopify、Etsy、Wayfair、Targetらと共同開発したこのオープン標準は、発見から購入、注文管理まで商取引のライフサイクル全体をカバーするものです。20社以上のグローバルパートナー(Visa、Mastercard、Stripe、Best Buy、Walmartなど)がすでに支持を表明しています。
こうした動きが同時多発的に進む中、O'Reillyの記事はこの混沌とした状況に「見取り図」を提供するものとして注目されています。
O'Reillyが提示する「2つの思想」と3層アーキテクチャ
Hotz氏の記事の最大の貢献は、乱立するプロトコルを「2つの設計思想」に整理した点です。
思想1: 会話型チェックアウト(利便性優先) --- OpenAIのACPとStripeが推進するアプローチです。チャット内で商品を見つけ、その場で購入を完了する「衝動買い」モデルと言えます。Secure Payment Token(SPT)という使い捨てトークンを使い、エージェントがクレジットカード情報に触れることなく決済を完了します。Stripe公式ブログによれば、すでにStripeで決済処理を行う事業者であれば、わずか1行のコードでエージェント決済を有効化できます。ただし、このモデルは「人間がその場にいる」前提で設計されており、自律的な購買行動には対応しきれません。
思想2: 自律型信頼レイヤー(検証優先) --- Google、Shopifyらが推進するUCP + AP2のアプローチです。UCPが商品カタログの公開・カート管理・注文処理を標準化し、AP2が暗号署名付きの「マンデート(委任状)」で決済の安全性を担保します。ここで鍵となるのが2種類のマンデートです。ユーザーが不在時にも事前承認されたルール(「このスニーカーを300ドル以下で購入」など)に基づいて購買を実行する「Intent Mandate」と、高額商品など人間が最終確認する場合に使う「Cart Mandate」があります。
O'Reillyの記事はさらに重要な指摘をしています。これら2つの思想は「どちらが勝つか」という競争ではなく、「並行して必要な2つのモデル」だということです。
また、記事はコマーススタックの「3層分離」というアーキテクチャ原則を提唱しています。「会話レイヤー」(エージェント本体)、「決済ボールト」(認証情報の安全管理)、「マーチャントAPI」(機械可読なカタログ)の3つを分離することで、チームごとに異なる開発速度で進化できるようになります。
EC事業者への影響と活用法
O'Reillyの記事は、CTO・CMO・CFOそれぞれへの具体的な行動指針を示しています。EC事業者が今すぐ取り組むべきポイントを整理します。
CTO/エンジニアリング部門 --- 「ヘッドレス化」への準備が最優先です。商取引ロジックをフロントエンドから分離し、機械可読なAPIとして公開できる構造にする必要があります。UCPでは/.well-known/ucpというディスカバリーエンドポイントが標準化されており、Google検索のAIモードやGeminiアプリからの直接チェックアウトが近くリリースされます。
CMO/マーケティング部門 --- 「エージェントSEO」という新しい競争領域が生まれています。これは従来のキーワード最適化ではなく、構造化データ、検証可能なレビュー、正確な商品属性など、AIエージェントが解析できる情報を整備する取り組みです。エージェントが新たなゲートキーパーになる世界では、ビジュアルや広告コピーよりも「機械が読めるデータの精度」が勝負を分けます。
CFO/コマース部門 --- リスク管理と不正検知の体制を「2速構造」に再設計する必要があります。大量・低単価の会話型チェックアウト(ACP型)と、高額・監査可能な自律購買(AP2型)では、それぞれ異なるリスクモデルが求められます。
重要なのは、これらが「待ち」の姿勢では済まない点です。O'Reillyの記事は「wait-and-seeは中立的な戦略ではない。構造的に出遅れるリスクを伴う」と明確に警告しています。
まとめ
O'Reillyの記事が示す最も重要なメッセージは、「プロトコルは配管に過ぎない」という点です。ACP、UCP、AP2のどれが「最良」かという議論は本質を見誤っています。真の勝者は、CTO・CMO・CFOがサイロを超えて統一された「エージェント・ファースト戦略」を実行できる組織です。
EC事業者にとって、2026年は「AIエージェントに選ばれる店舗」になるための基盤整備の年となります。まずは自社の商品データの機械可読性を点検し、APIファーストのアーキテクチャへの移行計画を立てることが、最初の一歩となるでしょう。
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