Omise AI

FISがVisa・Mastercardと連携、エージェンティックコマースで銀行の主導権確保へ

鈴木章広

鈴木章広

Twitter
2026/01/14

この記事のポイント

  1. FISがVisa・Mastercardと提携し、銀行向けエージェンティックコマース基盤を2026年3月末までに提供開始
  2. AIエージェントが商品検索・交渉・購入を自動実行し、既存の決済ネットワークで安全に処理
  3. 市場規模は2030年に米国1兆ドル、世界で3〜5兆ドルに到達の見込み

FISが業界初のエージェンティックコマース基盤を発表

FIS teams with Visa, Mastercard on agentic commerce

FIS teams with Visa, Mastercard on agentic commerce

別タブで開く

Fidelity National Information Services has joined with the card networks to enable banks to work with shopping agents driven by artificial intelligence

2026年1月12日、決済処理大手のFidelity National Information Services(FIS)は、Visa・Mastercardとの戦略的提携により、銀行向けエージェンティックコマース基盤の提供開始を発表しました。

この「業界初」とされるソリューションは、AIエージェントが消費者に代わって商品の検索・価格交渉・購入手続きを自動実行する「エージェンティックコマース」を、既存の決済ネットワーク上で安全に実現します。サービス提供は2026年第1四半期末を予定しており、全FIS発行銀行顧客が利用可能になります。

背景と業界動向:決済業界のエージェンティック対応が加速

エージェンティックコマースは、AIエージェントが人間の指示に基づいて商取引全体を自律的に遂行する新しい購買形態です。OpenAIの「Operator」やGoogleの「Shopping AI」など、テック大手が相次いで参入を表明しており、決済業界もこの変革に対応する必要に迫られています。

従来のEコマースでは消費者自身が商品を検索し、比較検討し、購入手続きを行っていました。しかしエージェンティックコマースでは、「出張用のスーツケースを5万円以下で探して」という指示だけで、AIが複数のサイトを横断検索し、条件に合う商品を見つけ、最安値を交渉し、決済まで完了します。

McKinseyの予測によれば、この市場は2030年までに米国で約1兆ドル、世界規模では3〜5兆ドルに達する見込みです。銀行と決済ネットワークにとって、この巨大市場での主導権確保が喫緊の課題となっています。

FIS・Visa・Mastercardの連携内容:既存の決済インフラを活用

今回発表されたFISのエージェンティックコマース基盤は、3つの重要な要素から構成されます。

AIエージェント機能

FISが提供するAIは「個人用デジタルアシスタント」として機能します。消費者があらかじめ承認した決済手段を使用し、商品の調達・価格交渉・購入完了まで一連のプロセスを自動実行します。人間の介入なしに複数のステップを処理できる点が、従来のチャットボットとの決定的な違いです。

Visa・Mastercardのネットワーク統合

Visa Intelligent CommerceとMastercardのプラットフォームが、AIエージェントによる取引を既存の決済ネットワーク上で安全に処理します。既存の認可・認証・紛争解決の枠組みがそのまま適用されるため、新たなセキュリティ基盤を構築する必要がありません。

これは銀行にとって重要なメリットです。AIエージェントが「カード情報を安全に扱い」「本人確認を経て」「既存のチャージバック制度の保護下で」取引を実行できるため、導入ハードルが大幅に下がります。

Know Your Agent(KYA)データの活用

FISの基盤は「Know Your Agent(KYA)」と呼ばれる新しいデータフレームワークに対応しています。これはKYC(Know Your Customer:顧客確認)のエージェント版で、どのAIエージェントが誰のために取引しているのかを識別・検証します。

銀行はKYAデータとカード情報を安全に連携させることで、不正取引を防ぎながらAIエージェントによる自動購入を承認できます。これにより「チャージバックの削減」「取引承認率の向上」「不正検知精度の改善」が期待されます。

EC事業者への影響と活用法:顧客接点の変化に備える

エージェンティックコマースの普及は、EC事業者にとって顧客接点の根本的な変化を意味します。

消費者が直接サイトを訪問しない未来

これまでEC事業者は自社サイトへの集客に多大なコストを投じてきました。しかしエージェンティックコマースでは、AIエージェントが複数のサイトを横断して最適な商品を選定します。つまり「消費者が直接サイトを訪れる」機会が減少します。

この変化に対応するため、EC事業者は以下の施策が必要になります。

  • API対応の強化:AIエージェントが商品情報・在庫・価格を取得できるよう、APIを整備
  • 構造化データの提供:商品仕様を機械判読可能な形式で公開
  • 動的な価格設定:AIエージェントの交渉に応じた柔軟な価格戦略

決済体験の変化

今回のFISの発表で明確になったのは、銀行が「決済だけではなく、購買プロセス全体の中心的な役割を担う」という点です。消費者がAIエージェントに「今月の予算内で最適な選択肢を探して」と指示すると、銀行の口座情報と連携したAIが予算管理も含めて処理します。

EC事業者にとっては、銀行が提供するエージェンティックコマース基盤に対応することで、「銀行のAIエージェントが推奨する候補」に選ばれる可能性が高まります。FISが2026年3月末までに全発行銀行顧客に展開する計画であることから、対応の準備期間は限られています。

まとめ:決済ネットワークが主導するエージェンティックコマース時代

FISとVisa・Mastercardの連携は、決済業界が「単なる処理インフラ」から「購買体験全体を支えるプラットフォーム」へと進化する重要な一歩です。テック大手が主導するエージェンティックコマースに対し、既存の決済ネットワークと銀行が「セキュリティ・信頼性・既存インフラの活用」という強みを武器に対抗する構図が明確になりました。

EC事業者は、この変化を「脅威」ではなく「新たな顧客接点の機会」と捉える必要があります。AIエージェントが最適な商品を見つけられるよう、API対応と構造化データの整備を進めることが、2026年以降の競争優位につながるでしょう。

今後注目すべきは、FISの初期ユースケース(取引認可・詐欺検知・ロイヤルティ・カスタマーサービス)がどこまで実用化されるか、そして他の決済処理事業者がどのような対抗策を打ち出すかです。エージェンティックコマース市場の主導権争いは、まだ始まったばかりです。

関連記事

タグ

Agentic CommerceAIPaymentsFISVisaMastercard

この投稿をシェアする

XFacebookLinkedIn

導入や進め方について まずはお気軽にご相談ください

技術や市場の変化が早い今こそ、早めの整理が有効です。 情報収集から具体化まで、段階に応じてサポートします。

お問い合わせ