米国小売市場は2030年に6.2兆ドルへ――Forrester最新予測が示す「店舗優勢」の未来とEC事業者の勝ち筋
鈴木章広
Twitter
Source: www.fibre2fashion.com
この記事のポイント
- Forresterが米国小売売上高(自動車・ガソリン除く)が2025年の5.2兆ドルから2030年に6.2兆ドルへ成長すると予測
- 2030年時点でも店舗販売が全体の71%(4.4兆ドル)を占め、EC比率は29%(1.8兆ドル)にとどまる見通し
- EC事業者にとっては「オンライン vs オフライン」ではなく、オムニチャネル戦略とエージェンティックコマースへの対応が成長の鍵
Forrester最新予測:米国小売は5年で1兆ドル成長へ

US retail to hit $6.2 trn as in-store sales stay dominant: Forrester
米国小売売上高が2030年に6.2兆ドルに到達、店舗販売が引き続き優勢とForresterが予測
Forresterが公開した「US Retail E-Commerce Forecast, 2025 To 2030」によると、米国の小売売上高(自動車・ガソリン除く)は2025年の5.2兆ドルから2030年には6.2兆ドルに達する見通しです。注目すべきは、2030年時点でも店舗販売が全体の71%を占め、4.4兆ドル規模を維持するという予測です。一方、EC売上は1.8兆ドルに成長し、全体の29%を占めるとされています。
背景と業界動向
この予測の背景には、米国経済の底堅さがあります。2025年初頭に関税政策をめぐる不確実性が高まったものの、消費者需要は堅調を維持しました。Forresterは、安定したインフレ率と金利、歴史的な低失業率、そしてインフレを上回る賃金上昇がこの成長を支えると分析しています。
ただし、消費パターンには所得階層による分断が見られます。バンク・オブ・アメリカやボストン連邦準備銀行の調査によると、小売成長を牽引しているのは株式市場の上昇や住宅資産の増加による恩恵を受けた高所得世帯であり、低所得世帯は生活必需品への支出に集中している状況です。
Moody'sの分析では、2026年の実質消費支出の伸びは約1.5%に減速すると予測されており、短期的には慎重な見方も必要です。
店舗が71%を占め続ける理由とECの成長ドライバー
なぜ店舗販売は強いのか。 Forresterは、実物に触れられる体験、即時の満足感、商品の実物比較、社会的交流、そしてパーソナライズされた接客という5つの要素が、店舗販売の優位性を支え続けると指摘しています。
Forresterの「Priorities Survey, 2025」では、小売企業のテクノロジー投資の上位5項目がすべて店舗体験の強化に関連していることが明らかになりました。最優先事項は「店舗スタッフが顧客により良いサービスを提供できるよう支援すること」であり、次いで「顧客セルフサービスソリューションの改善」が挙げられています。さらに、オムニチャネル機能の強化による在庫可視化や品揃え拡大、万引き・盗難防止も重要施策に含まれています。
一方、ECの成長を牽引する3つの要因があります。 第一に、Z世代の労働市場参入による人口動態の変化です。デジタルネイティブ世代の購買力増大はEC市場を押し上げます。第二に、AmazonやWalmartに代表される物流の進化により、より速く確実な配送が実現しつつあります。第三に、エージェンティックコマースのようなテクノロジーイノベーションです。
ただし、エージェンティックコマースの消費者普及はまだ初期段階です。Forresterのデータによると、2025年2月から10月にかけて、AIアンサーエンジンを商品検索に利用する米国消費者の割合は18%から19%とほぼ横ばいでした。OpenAIのInstant Checkoutを利用した米国成人はわずか8%にとどまり、54%がAIツールへの個人情報提供に抵抗感を示しています。
EC事業者への影響と活用法
この予測から、EC事業者が取るべきアクションは3つあります。
1. オムニチャネル戦略の強化。 店舗販売が71%を維持するということは、「ECだけ」では市場の3割しか取れないことを意味します。NRFの2026年予測でも指摘されている通り、オンラインと店舗の境界はますます曖昧になっています。BOPIS(Buy Online, Pick Up In-Store)やショールーミング対応など、チャネル横断の顧客体験設計が不可欠です。
2. エージェンティックコマースへの備え。 消費者の信頼獲得には時間がかかりますが、Forresterは今後5年でAmazonとWalmartがAI・機械学習への投資により市場シェアを拡大すると予測しています。中小EC事業者も、商品データの構造化やAIエージェント対応のAPI整備を今から進めるべきです。Forresterは2026年に買い物客の4分の1が小売チャットボットを利用すると予測しています。
3. キュレーション型マーケットプレイスの活用。 Best Buy、Lowe's、Ulta Beautyなど、大手小売がキュレーション型マーケットプレイスを拡大しています。自社ECだけでなく、こうしたプラットフォームへの出店はリテールメディア広告の成長機会とも連動しており、新たな販路として検討に値します。
まとめ
Forresterの予測は、「EC時代に店舗は不要」という単純な見方を否定しています。2030年になっても小売の7割は店舗で行われ、ECは確実に成長するものの全体の29%です。EC事業者にとっての本質的な問いは「オンラインかオフラインか」ではなく、「どのようにチャネルを横断して顧客に価値を届けるか」です。エージェンティックコマースやAI活用といった新技術への対応を進めつつ、店舗との連携を含めた総合的な戦略を構築することが、今後5年の成長を左右する重要な分岐点となるでしょう。
関連記事

エージェンティックコマースとは?AIが購買を代行する新時代を解説
エージェンティックコマースの全貌を解説。AIエージェントがユーザーに代わって商品選定から決済までを自律的に実行。AI経由トラフィック4,700%増、ウォルマートの20%がChatGPT経由という衝撃のデータと共に、企業が今すぐ始めるべき3つの準備ステップを紹介します。

Instant Checkoutとは?AIチャット内で購入完結する革新機能
【2分で解説】Instant Checkout(インスタントチェックアウト)の仕組みと導入メリットを解説。AIチャット内で商品発見から購入まで完結し、離脱率削減と購買転換率向上を実現するエージェンティックコマースの実装方法を紹介します。

AIがもたらす「21世紀のリテールルネサンス」:コマース業界の大転換点が到来
AIがリテール業界を根本から変革する「ルネサンス」時代が到来。2030年までにエージェンティックコマースは最大5兆ドル規模の市場を創出。EC事業者は今すぐユニファイドコマース基盤とAI活用戦略の構築が必要です。

