SRC(Secure Remote Commerce)がAIエージェント時代の新しいゲストチェックアウト標準を発表
鈴木章広
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Source: www.pymnts.com
この記事のポイント
- Mastercard、Visa、American Express、Discoverが共同推進するSRCがEMV SRC 1.5でAIエージェント対応を強化
- パスキー認証とネットワークトークン化により、消費者不在でもAIエージェントが安全に決済を完了可能に
- ゲストチェックアウトが「最も摩擦の少ない決済経路」としてエージェンティックコマースの中核に
カード大手4社がAIエージェント決済の新標準を整備

SRC Gives Agentic Commerce a New Guest Checkout Playbook
As commerce becomes increasingly agent-driven, guest checkout is poised for a resurgence, with EMV SRC 1.5 and passkey authentication.
グローバル決済の標準化を担うEMVCoと、その中核メンバーであるMastercard、Visa、American Express、Discoverが、AIエージェントによる自律的な決済を可能にする新たなゲストチェックアウト体験を発表しました。この動きは、2026年に本格化が予想される「エージェンティックコマース」時代に向けた決済インフラの大きな転換点となります。
背景と業界動向:なぜ今、ゲストチェックアウトが再注目されるのか
エージェンティックコマースの台頭
エージェンティックコマースとは、AIエージェントが消費者に代わって商品検索、比較、購入決定、そして決済までを自律的に行う新しい購買形態です。2025年後半からVisa、Mastercardの両社がこの領域への本格参入を発表し、2026年は「エージェント決済元年」とも呼ばれています。
Visaは2024年10月にTrusted Agent ProtocolをCloudflareと共同開発し、暗号署名によるAIエージェント認証の仕組みを構築。一方、MastercardはAgent Payフレームワークを発表し、2025年11月には米国での発行会社展開を完了、2026年初頭にはヨーロッパ・アジア太平洋地域でのパイロットプログラムを予定しています。
従来のチェックアウトの課題
PYMNTS Intelligenceの調査によると、中堅EC事業者の60%がチェックアウト時に何らかのUX上の問題を抱えているとされています。さらに、アカウント作成を必須にすることでコンバージョン率が25〜30%低下するというデータもあり、ゲストチェックアウトの提供は最大45%のコンバージョン率向上につながる可能性があります。
AIエージェントが決済を行う場合、この課題はさらに深刻です。エージェントは個々のECサイトにアカウントを持たないため、ゲストチェックアウトこそがエージェント決済の最適解となるのです。
詳細解説:EMV SRC 1.5とパスキー認証の革新
SRC(Secure Remote Commerce)とは
SRCは、EMVCoが策定するオンライン決済の標準仕様です。消費者向けには「Click to Pay」というブランドで展開されており、複数のカードブランドで統一されたチェックアウト体験を提供します。
EMV SRC 1.5の3つの柱
最新版となるEMV SRC 1.5では、以下の3つの機能が強化されました:
1. デバイス・ブラウザ非依存の相互運用性独自ウォレット(Apple Pay、Google Payなど)とは異なり、SRCは特定のデバイスやブラウザに依存しません。これは、AIエージェントがさまざまなプラットフォームをまたいで取引を行う際に極めて重要な特性です。
2. パスキー認証(FIDO標準準拠)従来のワンタイムパスコード(OTP)に代わり、生体認証やデバイスレベルのセキュリティを活用したパスキー認証を採用。Visa Payment Passkey はFIDO標準に準拠しており、消費者がスマートフォンのロック解除に使う方法と同じ認証方式で決済を承認できます。
3. ネットワークトークン化と暗号バインディング実際のカード情報を送信せず、トークン化された認証情報を使用。強力な認証と組み合わせることで、AIエージェントが決済を実行する際もカード情報は完全に保護されます。
AIエージェント決済の仕組み
SRC対応システムでは、AIエージェントが以下のフローで決済を完了できます:
- 認証:エージェントが正規の代理者であることを暗号署名で証明
- カード選択:消費者の事前設定に基づきカードを自動選択
- 決済完了:消費者が直接関与しなくても、単一フローでチェックアウト
重要なのは、消費者がその場にいなくても決済が完了できる点です。例えば、「今週中に〇〇を最安値で買っておいて」という指示に対し、AIエージェントが最適なタイミングで自律的に購入を実行できます。
EC事業者への影響と活用法
早期対応のメリット
1. コンバージョン率の向上ゲストチェックアウトは「最も摩擦の少ない決済経路」です。アカウント作成の障壁を排除することで、人間の顧客にもAIエージェントにも最適化されたチェックアウトを実現できます。
2. 新たな顧客接点の獲得AIエージェントが購買を代行する時代には、エージェントにとって「買いやすい」ECサイトが選ばれます。SRC対応により、AIエージェント経由の新規顧客を獲得するチャンスが生まれます。
3. セキュリティ基盤の強化EMV準拠の標準仕様を採用することで、独自実装のリスクを回避しつつ、カードブランド各社のセキュリティ基盤を活用できます。
実装に向けたアクションプラン
| フェーズ | アクション | 時期目安 |
|---|---|---|
| 調査 | Click to Pay対応の決済代行会社を選定 | 即時 |
| 準備 | パスキー認証の導入検討・テスト環境構築 | 2026年Q1 |
| 実装 | ゲストチェックアウトのSRC対応 | 2026年Q2 |
| 最適化 | AIエージェント経由の購買データ分析 | 2026年下期 |
銀行・カード会社側のインセンティブ
SRCには、発行会社(イシュアー)にとっても大きなメリットがあります。Big Techプラットフォームのウォレットに顧客を奪われることなく、カード登録、認証、リスク管理の主導権を維持できるためです。この点が、カード業界全体でSRC推進が加速している背景にあります。
まとめ:エージェント時代の決済標準が始動
SRCとEMV SRC 1.5の進化は、単なる技術アップデートではありません。AIエージェントが日常的に買い物を代行する未来に向けた、決済インフラの根本的な再構築です。
ゲストチェックアウトが「古い仕組み」から「エージェント時代の標準」へと位置づけを変える中、EC事業者には今から準備を始めることが求められます。Mastercardは2026年中頃のグローバル展開を予定しており、Visaも2026年第1四半期からの商用利用開始を示唆しています。
行動を起こすなら今です。Click to Pay対応の検討、パスキー認証の導入準備、そしてゲストチェックアウトの最適化を、2026年のロードマップに組み込むことをお勧めします。
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