中国がEC市場のアルゴリズム価格設定を規制:2026年4月施行の新ルール
鈴木章広
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Source: www.scmp.com
この記事のポイント
- 中国が「互聯網平台価格行為規則」を発表、2026年4月10日から施行
- アルゴリズムによる価格差別と「最低価格」強制を禁止、価格透明性を要求
- グローバルEC市場での公正競争ルール確立のモデルケースとして注目
中国が発表した新たな規制ルール

China bans e-commerce platforms from forcing lowest prices or abusing algorithms
Beijing moves to protect consumers and merchants, with new 29-article regulation tightening oversight of the fast-growing digital economy.
2025年12月20日、中国の国家発展改革委員会、市場監督管理総局、国家インターネット情報弁公室の3部門が共同で「互聯網平台価格行為規則」を発表しました。この規則は全29条から構成され、2026年4月10日から施行され、2031年4月10日までの5年間有効です。
この規制は、EC市場における「大数據殺熟(ビッグデータによる顧客差別)」と呼ばれる価格差別行為や、プラットフォームによる「最低価格」強制など、アルゴリズムを悪用した不公正な価格設定慣行を厳しく取り締まることを目的としています。対象となるのは、Alibaba、JD.com、Pinduoduo(拼多多)などの大手ECプラットフォームとその出店事業者です。
背景と業界動向
中国のEC市場は世界最大規模を誇る一方で、激しい価格競争が常態化していました。特に近年、プラットフォーム事業者がアルゴリズムとビッグデータを活用して、ユーザーの購買履歴や支払い能力に基づいて価格を動的に変更する「アルゴリズム価格設定」が広く普及しています。
しかし、South China Morning Postの報道によると、多くのプラットフォームは出店事業者に対して「最低価格保証」を強要し、他のプラットフォームよりも低い価格設定を義務付けてきました。これに従わない事業者は、検索ランキングの降格やトラフィック制限といったアルゴリズム上のペナルティを受け、事実上の排除圧力を受けていたのです。
また、同じ商品に対して顧客ごとに異なる価格を提示する「価格差別」も問題視されてきました。新規顧客には割引価格を表示する一方で、リピート顧客には高額な価格を提示するといった手法は、消費者の信頼を損なうだけでなく、市場全体の公正性を脅かす行為として批判されていました。
China Dailyの記事は、これらの慣行が「底辺への競争」を引き起こし、出店事業者の収益性を圧迫してきたと指摘しています。今回の規制は、こうした長年の業界課題に対する包括的な解決策として位置づけられています。
規制の具体的内容
新規則では、以下の4つの主要な禁止事項が明確に定められています。
アルゴリズムによる価格差別の禁止
プラットフォーム事業者と出店事業者は、消費者の知らないところで、支払い意思、支払い能力、消費傾向、消費習慣などの情報に基づき、データとアルゴリズムやプラットフォームルールなどの手段を用いて、同一の商品またはサービスに対して同等の取引条件下で異なる価格や料金基準を設定することが禁止されます。
この条項は、いわゆる「大数據殺熟」を直接的に取り締まるもので、新華社の報道によると、消費者の知情権(知る権利)と選択権の保護を目的としています。
「最低価格」強制の禁止
プラットフォーム事業者は、その支配的な規模を利用して、出店事業者に「最低価格」契約を課すことが禁止されます。具体的には、トラフィック制限、検索ランキングの降格、アルゴリズム上のペナルティなどを用いて、出店事業者に略奪的な価格設定や排他的な価格契約を強要することが違法となります。
価格透明性の要求
プラットフォームは、価格表示の透明性、アルゴリズム監査メカニズム、個人情報の価格設定への利用に関する同意管理システム、手数料変更や苦情処理のための出店事業者とのコミュニケーションシステムなどを実装する必要があります。
特に、動的価格設定や差別的価格設定のルールを公開し、自動支払い、自動更新、自動引き落としなどのサービスを規範化することが求められます。
アルゴリズムの届出義務
プラットフォーム事業者は、価格設定に関連するアルゴリズムについて、法令に基づいて届出手続きを履行し、インターネット情報弁公室などの関連部門によるセキュリティ評価と監督検査に協力する必要があります。
監督と執行体制
規制の実効性を確保するため、発展改革、市場監督管理、インターネット情報の各部門が職責に応じて、プラットフォーム経済分野における価格行為を監督します。
Bloombergの分析によると、規制当局は関連部門と協力してプラットフォーム事業者と出店事業者に対して注意喚起、警告、面談を行うことができ、必要に応じて、省レベル以上の発展改革、市場監督管理、インターネット情報部門が経営状況を調査することが可能です。
また、軽微な違反行為を迅速に是正した場合の寛大措置も規定されており、プラットフォーム側の自主的なコンプライアンス体制構築を促す仕組みも整備されています。
EC事業者への影響と活用法
この規制は、中国市場で事業を展開する国内外のEC事業者に大きな影響を与えます。
出店事業者にとってのメリット
長年、価格競争の圧力に苦しんできた出店事業者にとって、この規制は朗報です。「最低価格」強制の禁止により、プラットフォームとの交渉力が向上し、適正な利益率を確保しやすくなることが期待されます。また、アルゴリズムによるペナルティのリスクが軽減されることで、価格戦略の自由度が高まります。
プラットフォーム事業者の対応
Alibaba、JD.com、Pinduoduoなどの大手プラットフォームは、アルゴリズムの透明性向上と内部コンプライアンス体制の構築を急ぐ必要があります。具体的には、価格設定アルゴリズムの監査メカニズムの実装、価格ルールの公開、個人情報使用に関する同意取得プロセスの整備などが求められます。
グローバル展開への示唆
PPC Landの分析が指摘するように、この規制の影響は中国国内にとどまりません。Pinduoduoのグローバル展開ブランド「Temu」など、中国発のプラットフォームが海外市場で同様の慣行を採用している場合、国際的な監視が強化される可能性があります。
日本企業にとっても、この規制は重要な示唆を含んでいます。EC市場におけるアルゴリズムの透明性と公正性は、グローバルな規制トレンドとして今後さらに重視される可能性が高く、先手を打った対応が競争優位につながる可能性があります。
実務的な対応ステップ
中国市場で事業を展開するEC事業者は、2026年4月10日の施行日までに以下の対応を検討すべきです。
- 価格設定アルゴリズムの見直しと差別的要素の排除
- 価格表示の透明性向上(動的価格設定ルールの明示化)
- 個人情報の価格設定への利用に関する同意取得プロセスの整備
- 内部監査体制の構築と定期的なコンプライアンスチェック
- 最低価格契約や排他的価格契約の廃止または見直し
まとめ
中国の「互聯網平台価格行為規則」は、アルゴリズムとビッグデータを活用した価格設定慣行に対する包括的な規制フレームワークです。2026年4月10日の施行に向けて、プラットフォーム事業者と出店事業者の双方が準備を進める必要があります。
この規制は、中国EC市場における「底辺への競争」を抑制し、公正な競争環境を構築することを目指しています。同時に、消費者の権利保護とプラットフォーム経済の健全な発展を両立させる政策的な意図が明確に示されています。
China Policyの解説によると、この規制は中国のプラットフォーム経済監督が「緊急対応型ガバナンス」から「体系的な制度構築」へと移行していることを象徴しています。
グローバルEC市場においても、アルゴリズムの透明性と公正性は重要なテーマとして浮上しています。中国の今回の規制は、他国の政策立案者にとっても参考となる先行事例として注目されるでしょう。日本企業も、こうした国際的な規制動向を注視し、先手を打った対応を進めることが求められます。
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